小説:力 ( 短編集・五千回の生死に収録・ ) ~宮本輝さんの世界を辿って
『バスは大阪駅の向かい側で停まりますわなァ。阪神百貨店のちょうど前や。
そしたらそのまま御堂筋の信号を渡って、
曾根崎警察の横の道をまっすぐ行ったら、校門の前に出るんやさかい、
なんぼあの子でも、三日も付いて行ってやったら覚えますやろ』(小説:力 より)
「五千回の生死」という短編集に収められた、小説「力」。
この小説を読むたびに、
大阪の曾根崎新地の路地とはどんな所なのだろうかと、思いを馳せていました。
そしてついに、訪ねてみました。
縦にはしるのが↓大阪のメインストリート御堂筋。右に阪神百貨店。
同じく御堂筋の左側に、曾根崎警察署。
小説の舞台は昭和20年代の終わり頃。
すっかり景色は変わってしまったのでしょうが、
御堂筋をひょこひょこ渡ってゆく少年の姿が、見えるようでした。
↓曾根崎警察署
↓警察の、裏の路地
この路地を直進してゆくと、
曾根崎お初天神通り商店街↓にぶつかり
そして、かつて曾根崎小学校であった「大阪北小学校」がすぐそこに。
しかしこの大阪北小学校、2007年3月に児童数の激減のため閉校されたそうです。
初めて少年が一人で登校した日のことを、少年の母が思い出して語る…
『あの日、お父ちゃんが、そっと私に言うたんや。あいつのあとを尾けて行けって。
~中略~
よっぽどのことがない限り、尾けてることはばれんようにせェって言われていたさかい、
うしろのほうでやきもきしながら隠れてたんや。
~中略~
あんたが、校門に入ったのを見届けて家に帰ってから、
一部始終をお父ちゃんに話して聞かせたんや。
お父ちゃんはお腹をかかえて笑いはった。
お父ちゃんがあんなにおかしそうに笑いはったのは、
商売がつぶれてから、あとにも先にも、あのときぐらいのもんやったろ。
よかった、よかった。あの頼りないやつでも、これでひとりで生きていけるめどがついた。
そない言うて、お前が帰って来るのをいまかいまかと待ってはったんや。』
(小説:力 より)
まさに、大阪の中心地。
近代的に整備された街。
でも、
この小説に描かれた、かつての街の空気が、やはりどこかに漂っているように感じられ、
一層深く、この小説に触れることができたように思いました。
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☆おまけ☆
ちなみに、ここ曾根崎、あの曾根崎心中の舞台でもあるのです~。
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